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投稿日 : 2024年1月5日 最終更新日時 : 2024年01月05日

【コラム】M&Aの採算指標 – 買い手におけるもう一つの判断軸

売り手にとっては企業の売却価格が高ければ高い程良い訳ですが、買い手が企業である場合に買収判断軸は少し複雑です。M&Aにはある程度確立された企業評価手法が存在しますが、買い手は専門家が適切な企業価値と言っても買収できるとは限りません。特に大企業は「企業価値」とは別に「投資採算」の分析を行い、自社に与える影響や投資優先度を吟味します。

 

1.企業価値評価 VS 投資採算

企業評価の代表的な手法として次のような手法があります。いずれも買収対象となる対象会社の財務やキャッシュ・フローから導く価値です。視線は対象会社に注がれています。

  • 純資産
  • 類似会社比準法
  • DCF法

買い手における投資採算計算の代表的な手法としては次のような手法があります。いずれも買い手自身に与える影響を分析しています。視線は買い手自身に注がれています。

  • のれん控除後利益
  • 投資回収期間
  • ROI
  • IRR

買い手にとってはM&Aは一つではありません。自社にとって限られた買収資金をどの案件に優先的に投下するかは対象会社の事業内容(買収意義)や投資採算が重視されます。

投資採算指標として何を用いるか、何を重視するかは企業ごとに異なります。多くの企業はのれん控除後利益を見ています。メーカー系では工場投資に近い感覚で投資回収期間を見ることもあり、超大手企業ではIRRを見るケースが多くあります。

 

2.採算指標:のれん控除後利益

買い手の利益見通しにどの程度プラス又はマイナスの影響をあたえるのか、(買収対象の利益-のれん)の金額を算出し、利益インパクトをシミュレーションします。

買収のれんの償却によって利益のマイナスインパクトが発生するため、買収によって結局利益が増えるか否かの確認ができます。特に上場企業では投資家から毎四半期ごとに業績をモニターされているので意識せずにはいられません。

他方で、のれんを定期償却する必要のない国際会計基準を採用していたり、償却期間の長い買い手企業が有利になりやすいです。

 

3.採算指標:投資回収期間

対象会社の利益やキャッシュ・フローによって何年でM&A投資を回収できるかの計算です。

回収期間が短い程、投資回収のリスクが少ないことになります。

他方で高成長が期待されるような企業の場合は投資回収期間が長めになるため、形式的な判断には留意が必要です。また、設備投資と同じ感覚で投資回収期間を設定するとM&A市場から下方に乖離した(低い)買収価格が導かれることがあります。それでM&Aが成立するかは慎重に検討が必要です。

 

4.採算指標:ROI (Return on Investment)

対象会社の予想利益等をM&A投資額で割って、買い手にとっての年間投資リターンを計算するものです。後述のIRRと異なり、一時点のリターンであったり、複数期間の (複利計算ではない)単純平均リターンとして示されます。

投下資金に対して一定以上のリターンが期待できるM&Aを見分けることができます。また、より高いリターンが期待されるM&Aに優先的に資金を振り向けられます。

他方でROIには規模やリスクが織り込まれていません。案件規模やリスクの大小も理解した上でM&Aの優先度合を判断する必要があります。

 

5.採算指標: IRR(Internal Rate of Return)

IRRは内部収益率と呼ばれます。投資期間における対象会社の将来キャッシュ・フローを(複利計算ベースで)年率換算するとどれくらいの投資利回りになるかという計算です。一見複雑ですが、実務上はエクセルの計算式を用いることで簡単に計算できます。

ROIと同様に投下資金に対して一定以上のリターンが期待できるM&Aを見分けることができます。また、複利計算ベースでの平均年間投資リターンを計算できるため、企業財務上の資本コスト(WACCや株主資本コスト)との対比でどれくらい有意義な投資なのか区分けしやすい点が特徴です。

他方で、計算式の複雑さなどから直感的に理解しにくい面があります。企業投資や企業財務の専門的な発想です。また、IRRを計算するためには投資イグジット(売却等)の前提を設けて計算する必要がありますが、イグジットを前提としていない事業会社では計算前提に悩むケースも見られます。

規模やリスクが織り込まれていない点はROIと同様です。

 

6.まとめ

M&Aというと企業価値評価が前面に出てきますが、買い手はそれだけで投資意思決定している訳ではありません。様々な制約や複数M&A間での優先度合なども判断しています。

実際のM&A協議において、買い手が「のれん控除後利益が。。。」とか「ROIが。。。」と発言することはほぼ有りません。全ては買収価格に集約され、買えるか買えないのかというシンプルな形でコミュニケーションがなされることが通常です。

 

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