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投稿日 : 2023年10月31日 最終更新日時 : 2023年11月08日

【コラム】従業員とのM&A情報の共有(対象会社側の立場から)

自社のM&A情報をどのタイミングで従業員と共有するかは難しい判断です。できれば共有したいという気持ちを一旦抑えつつ、いくつかの留意点を念頭に置きながら、個々の状況に即した判断が必要となります。

 

 

1.従業員との情報共有

M&Aや事業承継に際しては検討事項や事務作業が多く、従業員のサポートをもらいながら進めたいと思うこともあるでしょう。また、買い手側から従業員と直接会話したいとの要請を受けることもあるでしょう。

従業員と情報共有したらダメ。というルールはありませんが、M&A実務において従業員との情報共有は慎重に進めるのが定石です。一旦情報共有すると巻き戻しはききません。

 

 

2.漏れたら困るのか?

従業員にM&A情報が漏れたら何が問題なのでしょうか?

 

(1)経営に与える影響

従業員の(本来必要のない)不安を招く可能性があります。

M&Aは経営権が変わる取引です。経営が変わると経営方針や人事方針が変わる「かも知れない」と従業員は不安になります。従業員にとって今が良い会社であるほど不安になります。従業員経由で取引先に漏れると取引先も不安になります。

噂が広がっても会社側は相手先が決まっていない状態では具体的なことは何も言えません。仮に何かを言ったとしても相手先も決まっていないのに信じてよいのか従業員は分かりません。相手先を特定した上で、具体的に説明しない限り不安は払しょくできません。

 

 

(2)M&Aに与える影響

追い詰められた状態でのM&Aとなります。

M&Aは株主や経営者の判断に基づきます。ところが、経営権変更に不安を感じると従業員はM&Aの判断に口出しをしたり、時には妨害したくなる気持ちが湧いてくることもあるでしょう。

セブン&アイ・ホールディングスがそごう・西武を投資ファンドに売却する際、従業員がストを起こしました。この件では情報漏洩ではなく案件公表後の話ですが、こういった動きがM&A合意前に生じるとM&Aが滞ります。

企業側が混乱している状態が外部に見えると、売主の交渉力が弱まり、足元をすくわれます。買い手は引け腰となり良い条件は出てきにくくなるでしょう。追い詰められた状態での判断になり良い結果に繋がりにくくなります。

 

 

(3)インサイダー情報

上場会社や上場会社グループではインサイダー情報管理にも意識が必要です。

上場会社グループのM&Aは上場会社の株価に影響を与える可能性があります。そのため上場会社における重要事実(子会社のM&Aを含む)はインサイダー情報として規制対象となっており、未公表のインサイダー情報に基づく株式売買は金融商品取引法で禁じられています。

非公表のM&A情報を従業員に伝えることは上場会社株式のインサイダー取引のきっかけになります。従業員自体が取引することは論外ですが、従業員から聞いた第三者による取引も頻繁に摘発されています。

情報を拡散させないことは、企業自身を守り、関係者個人を守ることにもつながります。

 

 

3.M&A情報は洩れる?

絶対に漏れる。とまでは言いませんが、基本的にはいつかは漏れると考えておくことが無難です。

新聞などでM&A情報がスクープされることがあります。スクープと言うと格好よく聞こえますが、見方を変えるとM&A情報の漏洩です。注目をあびるM&Aは当然に厳重な情報管理のもとに進められていますが、それでも漏れることがあるのです。

 

 

4.情報漏洩対策

実務上は情報共有範囲を必要最小限とし、M&Aを速やかに進めることが最も重要です。

その他、情報共有者を明確にすること。従業員に守秘の誓約をしてもらうこと。会社名を出さずに会話や資料作成すること。資料にはパスワードを付すこと。など、一般的な機密情報管理方法があります。人によって機密意識に差があるため、個人の判断に任せるのではなくルール化することがベターです。

 

 

5.まとめ

全てのM&Aで従業員との状況共有がテーマになると言っても過言ではありません。

M&A情報を一旦従業員と共有すると巻き戻しがきかないため慎重に検討すべきですが、実際にどこまで誰と共有するかは企業規模や状況にもよるためケースバイケースです。また、状況の進展に応じて徐々に共有範囲を広げるケースもあります。

想定外の事態に振り回されることを避けるためには、誰といつ、どこまで情報共有するか、経営陣が主体的にコントロールすることが望まれます。

 

 

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