投稿日 : 2024年10月31日 最終更新日時 : 2024年10月29日

【コラム】中小M&AにおけるPMI

PMI(ピーエムアイ。Post Merger Integration)は、M&Aの譲受人がM&A後に円滑に事業運営するための事業統合プロセスです。この事業統合プロセスはM&Aが予定通りに効果を上げるために重要です。PMIの観点からはM&A検討とPMI検討を同時並行で進めることが有効です。

 

1.中小M&AにおけるPMI

昨今M&Aのすそ野が広くなり、それに伴いPMIが重要という点も認知されつつあります。金融当局も中小M&AにおけるPMIの重要性やPMI支援の担い手に対する高い課題意識を持ち始めています。

※「円滑な事業承継や企業の成長・生産性の向上等の手段としてM&Aの重要性が増す中、金融機関が・・・M&A後の事業統合作業(PMI)を含めたM&A支援により積極的に取り組むことへの期待が高まっています。」(2024年8月30日、金融庁、https://www.fsa.go.jp/news/r6/ginkou/20240830-2.html

 

2.PMIの内容

PMIとして何を行うかは案件ごとにケースバイケースですが、中小M&Aにおいて①円滑かつ確実な事業引継ぎ(守り)、②積極的な融合・シナジー創出(攻め)の2種類に分けられます。

 

①円滑かつ確実な事業引継ぎ

  • 事業引継ぎのための必要最低限の人事異動
  • 役員・従業員への挨拶・経営方針の伝達
  • 取引先・外注先への挨拶・経営方針(今までと変わらない等)の伝達
  • 銀行等への経営者保証外しや譲受人による借り換えの相談
  • 対外的なM&Aの開示や説明 など

 

②積極的な融合・シナジー創出

  • 当事者間の開発~製造・販売などにおける業務連携
  • 商品やサービスのクロスセル生成の整備と運用
  • シナジー創出に向けた社内組織の再編
  • 人事制度の変更や統一
  • 重要なシステム統合 など

 

積極的なシナジーを目指す場合は現場も巻き込んだ詳細なPMI計画を作成したり、厳格な進捗管理を行うこともありますが、事業承継M&A・中小M&Aではどちらかというと「①円滑かつ確実な事業引継ぎ」が重要な印象を持っています。限られた期間でフルセットのPMIの検討や実行を目指すことは現実的でないケースも多々あります。事業はスピードが大事ですが、当事者双方が無理をしないことも大事なように思います。

 

3.M&AプロセスにおけるPMIの位置づけ

PMIはM&Aの後に始まるM&Aとは別物のプロセスだとみられることがあります。その場合、M&A直後にいきなりPMIの課題に直面し、ドタバタが生じます。ドタバタだけなら良いですが、M&Aの意味がなかったとなれば最悪の事態です。

 

【一般的なイメージ】

 

最悪の事態を避けるため、M&AとPMIを一体として考えるべきです。M&A協議のプロセスが進むにつれ、譲渡側の情報開示やコミュニケーションが進み、結果としてPMIの検討も進めることができます。

 

【実際のイメージ】

 

4.詳細調査(デュー・ディリジェンス、DD)とPMI

初期段階ではPMIの検討材料が限られます。PMIをしっかり検討できるようになるのはDDのタイミングです。DDフェーズで十分にPMIを検討することが極めて重要です。

譲渡側の負担にも配慮しつつ、書類確認だけではなく、質問やインタビューなどを通してできる限りの情報取得と検討が必要です。

DDというと、会計士による財務調査や弁護士による法務調査のイメージが強いですが、その場合、事業実態の把握や将来見通しだけではなく、PMIも抜け落ちます。この点で会計士や弁護士任せのDDは危険です。譲受自身がDDに首を突っ込み、今後の経営方針や事業運営などのイメージづくりができると良いM&Aになります。

譲受人にPMIの知見がない場合は、簡易的な話であればPMIに知見のあるFAの登用、大型M&Aやシナジーの規模が大きい場合は経験あるPMIコンサルタントの活用が考えられます。いずれもM&Aという特殊な状況のため、M&Aの知見も有することがポイントです。

 

5.PMIを誰に相談するか

「円滑かつ確実な事業引継ぎ」はM&Aアドバイザーになじみがある部分です。M&A会社選定に際しての制約がない場合は、PMIに関する知識と経験のあるM&Aアドバイザーを選ぶとよいでしょう。特に譲受人側のFA経験、PMIを重視する大企業への助言経験のあるアドバイザーだとより安心でしょう。

「積極的な融合・シナジー創出」はM&Aアドバイザーよりも事業コンサルタントが得意な部分です。事業コンサルタントも様々ですが、中小案件の場合であれば金融機関、戦略コンサルタント出身の個人事業主や中小企業診断士などが考えられます。知名度に惑わされず、担当者の実績とコンサルタント会社の責任感で選ぶとよいでしょう。

 

6.クロージングに要する期間とPMI

M&Aのクロージング日(実行日)にPMIが計画段階から実行段階に入ります。M&A実行日は売買の観点からだけではなく、十分に準備を整えた状態でM&Aが実行できるかという視点からも検討が必要です。

通常、M&A合意~実行までは一定の時間を要します。譲受人側でPMI準備が必要なことが理由の一つです。短期間で売却できることが譲渡人にとって良いこととは限りません。しっかりした譲受人ほど、しっかり準備を行います。

 

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